歯ぐきの切開やインプラント体(フィクスチャー)の顎の骨への埋め入れなど、インプラント治療では外科的な手術を行います。外科手術を行うため、インプラント治療には細菌感染のリスクが少なからず存在します。
細菌感染のほか、インプラント治療には手術中のトラブルや、治療後にインプラント体が抜け落ちるリスクも
起こり得るリスクを低減し、インプラント治療の安全性・正確性を高めるためには、歯科医師・クリニックが適切な対策を行わなければなりません。歯科医師・クリニックによる対策と共に、患者さんにもお守りいただきたい注意点(治療後の注意点)がございます。
今回は、「インプラント治療のリスクを低減するために大切なこと」についてお話しします。
目次
■インプラント治療においてリスクが発生する可能性がある場面
インプラント治療では、以下の3つの場面でリスクへの対策を行うことが大切です。
①インプラント手術前
・検査、診断、埋め入れシミュレーション、治療計画の立案、歯周病をはじめとするお口の病気や異常の治療(必要な場合)、骨造成(必要な場合)
②インプラント手術時
・歯ぐきの切開、1回目:インプラント体の埋め入れ(ドリリング)、2回目:アバットメントの接続、骨造成(必要な場合)
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③インプラント手術後
・人工歯(上部構造)の取り付け
・歯ぐきの創口の治癒期間、インプラント体の顎の骨への結合期間、治療後のメンテナンス期への移行
①インプラント手術前のリスク対策
1-1.歯周病治療を行い、歯周組織の状態を改善しておく
インプラント治療では歯ぐきを切開し、顎の骨に人工歯根となるインプラント体を埋め入れます。インプラントを安定させるためには、治療を受ける患者さんの歯ぐきや顎の骨などの歯周組織が健全な状態であることが必須条件になります。
中高年世代の方を中心として、インプラント治療をご希望の方は歯周病が中程度~重度に進行しているケースが多いです。
歯周病の方には、インプラント手術前に歯周病治療を行います(歯周外科治療を含む)。歯周病治療を行い、歯周組織の状態を改善しておくことでインプラント体を安定させやすくなります。歯周病治療により、歯ぐきや顎の骨に巣食う細菌(歯周病菌など)をできるだけ取り除いておくことも重要です。細菌を取り残すとインプラント体の骨結合がさまたげられる可能性があるほか、取り残した歯周病菌により、治療後にインプラント周囲炎(歯周病の一種)を発症したり、歯周病が再発する引き金になってしまう場合があります。
1-2.適切に検査・診断を行う
インプラント治療を安定して行うためには、検査・診断が欠かせません。
歯科用CTや口腔内スキャナーを用いて精密検査を実施し、歯科医師が患者さんの歯周組織の状態を見極めた上で適切に診断を行うことが大切です。
1-3.患者さんに合った治療計画を立案する
インプラント治療を成功に導き、埋め入れたインプラントを安定して使うためには、患者さんに合った治療計画が必要です。
患者さんごとに異なる歯並びや顎の形を見極め、適切に治療計画を立案することで、マニュアルだけに頼らない、1人ひとりの方に合ったインプラント治療につながります。
1-4.必要に応じて骨造成を行い、顎の骨を増やす
インプラント体を安定させるために欠かせないのが顎の骨の高さと幅・顎の骨量(骨密度)です。患者さんの顎の骨が不足している場合は、そのままではインプラント手術を行えません。
顎の骨の高さや幅・骨量が不足しているときは必要に応じて骨造成を行います。骨造成により、顎の骨を増やすことでインプラント体を安定させやすくなります(※)。
(※)骨造成とインプラント手術を同時に行う方法もあります。
1-5.糖尿病や骨粗しょう症などの持病がある方に対しては、医師としっかり連携を取る
糖尿病(2型)や骨粗しょう症などの持病がある方は、そのままではインプラント治療を受けられない場合があります。
持病がある方に対しては、病気への対策を徹底した上でインプラント手術を行うことが重要です。
持病がある患者さんのかかりつけの医師と歯科医師がしっかり連携を取ることで、インプラント治療を行える可能性&手術の安全性を高められます。
1-6.インプラント治療に必要な器具・機器を備える
インプラント治療を安全に行うには、細菌感染対策のための衛生機器・設備が必須です。
<衛生機器>
・高性能洗浄器
・高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)
・口腔外バキューム
・ディスポーザブルアイテム(手袋などの使い捨て可能なアイテム)
・空気洗浄器 または 空気清浄機
<設備>
・オペ室(個室 または 半個室)
・オペ室用の明るいライト
衛生機器・設備に加え、検査で用いる以下の精密機器、および、手術用ガイド器具、各種アプリも欠かせません。
<精密機器・器具、アプリ>
・歯科用CT
・口腔内スキャナー
・サージカルガイド
・埋入シミュレーションアプリ
・補綴シミュレーションアプリ
②インプラント手術時のリスク対策
2-1.サージカルガイドを用い、適切な位置へインプラント体を埋め入れる
サージカルガイドとは、インプラント体の適切な埋め入れ位置をガイドする器具です。
インプラント手術時にサージカルガイドを用いることで、適切な位置へのインプラント体の埋め入れにつながります。適切な位置へのインプラント体の埋め入れにより、インプラント体が骨を突き破る、歯槽骨からインプラント体が飛び出るなどのトラブルが起きるリスクを低減できます。
2-2.インプラント体の埋め入れ時には必ず患部の冷却を行う
ドリリング(ドリルによる顎の骨への穴開け)を行い、インプラント体を顎の骨に埋め入れるとき、患部を冷やさないと顎の骨が火傷してしまい、インプラント体が結合しなくなる可能性があります。
ドリリングを行う際は患部を冷却することで、顎の骨の火傷を防ぎやすくなります。患部の冷却により、火傷が原因でインプラント体の骨結合が阻害されるリスクも低減できます。
③インプラント手術後のリスク対策
3-1.処方された抗生剤を飲み切る
インプラント手術の直後は、歯ぐきの創口を介して細菌感染が起きやすい状態です。
細菌感染による患部の炎症や化膿を防ぐために、クリニックで処方された抗生剤(抗生物質)は用法・用量を守ってすべて飲み切りましょう。
3-2.患部の仮歯で硬い物や弾力のある物を噛まないようにする
インプラントの手術後、2週間程度経ったときに抜糸を行い、患部に仮歯を入れます(※)。
(※)目安の期間です。患者さんや症状により、抜糸までの期間が異な
ります。患部の状態によっては仮歯を入れない場合もあります。
抜糸後、仮歯は入りますが、仮歯はあくまでも仮の歯です。仮歯で硬い物や弾力のある物(焼いた肉など)を噛むと過剰な負荷が患部にかかってしまい、インプラント体と顎の骨結合がさまたげられるおそれがあります。
インプラント手術後は、埋め入れたインプラント体が顎の骨に結合して安定するまで、患部の仮歯で硬い物や弾力のある物を噛まないようにしましょう。
3-3.インプラントが安定した後は毎日のセルフケアをしっかり行い、歯科医院で定期メインテナンスを受ける
手術後、インプラント体が顎の骨に結合して安定した後は、硬い物や弾力のある物も噛んで食事を楽しめるようになります。
安定性が高いインプラントの人工歯ですが、毎日のケアを怠ると歯周病の一種である「インプラント周囲炎」を発症する可能性があります。
インプラント周囲炎を発症すると歯ぐきが炎症を起こして腫れたり、歯ぐきから出血するなどの症状が現れることがあります。インプラント周囲炎が進行して重度になると顎の骨が溶け、インプラントが抜け落ちてしまうケースも。
インプラント周囲炎や虫歯・歯周病からお口の健康を守るためには、ご自身で行う毎日の歯みがき(&歯間清掃)によるセルフケア、および、歯科医院で受ける定期メインテナンスが欠かせません。
インプラント治療後は毎日のセルフケアをしっかり行うと共に、歯科医院で定期的にメインテナンス(検診・インプラントの状態チェック・歯のクリーニング)を受けることでインプラントを保ちやすくなり、お口の健康の維持につながります。
【歯を失いしっかり噛めない方、失った歯の治療方法でお悩みの方はお気軽にご相談ください】
愛知県名古屋市中区栄にある高山歯科室では、日本口腔インプラント学会 認定専門医、および、日本歯周病学会 認定専門医の資格を持つ院長によるインプラント治療を行っています。
30年以上のインプラント治療の経験に基づき、骨造成が必要な難症例にも対応可能です。歯周病で多くの歯を失い、顎の骨が溶けてガタガタになっている方への歯周外科治療(再生療法)も行っています。
歯を失いしっかり噛めない方、失った歯の治療方法でお悩みの方は当院までお気軽にご相談ください。相談費は無料です。ご予約はWEB/お電話にて承っております。
カウンセリングでは患者さんのお口のお困りごとやご希望をじっくりとお伺いし、歯科医師が丁寧にわかりやすく治療計画・費用についてご説明をさせていただきます。